今までに私たちは、下図のような生物活性分子を、独自の触媒的不斉反応を開発することにより合成してきました。これらの研究を通じて痛感したことは、「難しい分子の合成は大変苦しい」ということです。大変な労力と時間、資金をつぎ込んで、最後にできる量は微々たるものである、ということがほとんどでした。これはとりもなおさず、現在の有機合成化学が未熟であることを露呈しています。
この現状を打破するために、私たちは、分子の合成を単純化、短工程化できる触媒反応の開発に取り組みます。触媒反応開発の立場から、分子合成をRCS(Robust=力強い,
Clean=無駄がない, Short=短工程)化していきたい。特に焦点とするのは、
1. 保護基を使わない触媒的炭素骨格合成
2. 多官能基性の大きな基質を用いて合成終盤で適用できる収束的触媒的フラグメントカップリング反応
の2つです。双方とも、私たちが培ってきたソフトメタル共役塩基触媒の概念が強力な基盤になるものと考えています。これらの独自の合成法を鍵とする、オリジナリティの高いcomplex
molecule synthesis に取り組みます。「分子の合成がストレスやリミテーションであってはいけない」――これが最終目標です。