研究概要

有機合成化学は、これまで永続的な発展を遂げてきているものの、未解決な重要問題も幾つか存在する。その最たるものは、フラスコ内では一つ二つの反応を行うことはできても、生体内のような複数の酵素(生体触媒)が関与する多触媒反応による有機分子の活性化や複雑な化合物の一挙合成になると、既存の触媒化学では全く歯が立たないということであろう。本研究領域では、独立した機能を持つ複数の触媒(あるいは触媒部位)の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し、実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった、極めて効率の高い有機合成反応を開発する。ハイブリッド触媒系の創製により、構造が単純で入手容易な原料から優れた機能を持つ付加価値の高い有機分子を、要求に応じて迅速に組み上げる分子合成オンデマンドを実現する。

研究項目A01では、例えば炭化水素のような、構造が単純で入手容易な有機分子を活性化し、分子活性種を発生するハイブリッド触媒系の創製を行う。研究項目A02では、反応位置、官能基選択性、立体化学など、有機分子を効率的・実用的にオンデマンド合成するために必須となる多種類の因子の精密制御を、ハイブリッド触媒系を用いて実現する。研究項目A03では、原料から目的とする有機分子に向けて、構造の複雑性を迅速に向上させるドミノ触媒反応の創出と応用展開を狙う。

公募研究として、本研究領域があるからこそ可能となる独創的で革新的な触媒系(システム)の創製、を目指す提案を歓迎する。要素技術の提案であっても、領域内の共同研究によって革新的なハイブリッド触媒系に発展する可能性が明示されていれば、選考の対象とする。触媒化学分野からの提案に加えて、例えば、有機分子を構成する化学結合の活性化に関連する物理から化学に至る基礎分野、短寿命で一過性の反応活性種の観測など反応機構解明に有用な情報を与える分析化学や錯体化学の分野、触媒反応開発を基盤として複雑な有機分子の合成を単純化する有機合成化学分野などからの本質的で挑戦的な提案を期待している。